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コラムNo.8

ある眼科医のまなざし

岡山市立市民病院
  眼科部長  坂 口 紀 子

このコーナーについて「趣味など何でも」との命題を頂いたが、本当にそれでよいのか、一抹の不安を覚えながらも筆を起こすことにする。

私の趣味のうちで、長く続けているものの一つは観劇である。岡山市民劇場という団体の会員となって、ほぼ2カ月に1作のペースでお芝居を観ている。皆様も街角でお店の窓や室内に貼られた公演案内のポスターをご覧になったことがあるかもしれない。3人以上のグループを作り、このグループ(=サークル)が集まって、4,000人余の団体となっている。会員は単にお芝居を観るだけでなく、演目の選択、会場の運営、会員同士や劇団員との交流などを行っている。

私自身は大学時代に入会し、子供たちが小さかった頃を除いて、かれこれ25年近い会員歴である。

初めはサークルの代表に会費を渡して座席券を受け取り、観に行くだけの会員だったが、数年前、自分のサークルから独立させられ(これを株分けと言う)、今では17名のサークル員を取りまとめて、会費の徴収やらチケットの配布などを行う立場になった。年に6つの作品が数日ずつ上演されるが、うち1作品には会の運営担当(会報誌の編集や会場入り口のもぎり、場内整理、アナウンスなど)として関わらなければならない。

職場や眼科医会の仕事が忙しい時期と重なれば、これが結構しんどいこともある。しかし、その苦労も上回って、人やお芝居との出会いを楽しんできた。お芝居のストーリー、演じている人たちの芸の巧みさ、もちろんそれはある。しかし、その他に観続けている理由の一つは、限られた日常の空間で狭くなりがちな視野、固定してしまいそうな私の視点が、ふっといつもの私を離れて、登場人物に共感したり、「へえ、そんな感じ方もあるのか」と驚かされたりするからである。また、会員同士の集まりでは、私は、大多数の人にとっては、「お芝居好きの一人のオバサン」である。日ごろ、「患者さんの立場に立って…」と理屈ではわかっているが、どうしても自分の平素の物の考え方が基準になってしまうのを、少しは矯正されている気がする。

また、当地での公演の最終日に、終演後、舞台装置の搬出を手伝うことがある。短時間のうちに、見事に装置や照明が解体され、舞台は再び元の板に戻る。専門のスタッフもいるが、さっきまで出演していた若い役者さんも一緒に、大道具さんの指図を受けて、順に荷物を積み込んでいく、12トントラックの側面から、順序通りにぴたりと収まっていく。その工程がまた気持ちがよい。良く練られた手順と、手慣れた人たちのチームワーク、自分の職場でもこうあって欲しいといつも感心する。

これまでで最も心に残った作品としては、奈良岡朋子、仲代達矢主演の「ドライビング・ミス・デイジー」を挙げたい。アカデミー賞受賞のこの作品をどう舞台に乗せるかと思ったが、少し意固地な老婦人と黒人の運転手の心の交流を描いて秀逸であった。次回2月の例会は前田美波里さんのミュージカルである。さあ、行ってまた元気を貰って来よう。

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