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コラムNo.34

忘れられない患者さん

倉敷スイートホスピタル 内科
  江 尻 純 子

医師という仕事について10年が過ぎ、やりがいも無力さも経験することが多くなりました。今回、江澤香代先生のご紹介でこのような機会を頂き、印象深かった患者さんとのエピソードをご紹介したいと思います。

現在私は大学を退職後、一般病院で内科医として勤務しております。大学では経験できなかった他科の内科患者様を担当する機会も増えました。その中で忘れられない患者さんに出会うことができました。あまり真面目に通院していなかった患者さんでしたが『検査して欲しい』とふらり外来に来られたその日の検査結果は、末期癌でした。『できる治療は全部やってみよう』と大学病院で治療を始めたものの、なかなか治療が奏効しませんでした。その後、入退院を繰り返していましたが、最後に私の勤務先に入院してからは、癌の痛みを我慢する日々となっていました。『痛み止め(麻薬)を増やしませんか? 緩和も医療の一つですよ』と何度提案しても『ぼーっとしたくない。痛い方が生きている実感がある』と断られていました。きっと想像を超えた痛みだったと思います。しかしある日の回診で『心残りはありません。痛みがわからんようにしてください。先生にとって、僕はたくさんの患者さんの1人でしょうけど、僕にとって、先生は最期を診てもらう忘れられない先生ですから』とか弱い笑顔で言われたのです。数日後、静かに息をひきとられました。帰り際に娘様からお手紙を頂きました。そこには『僕にとって忘れられない先生になりました。お世話になりました』と書いてありました。

この患者を助けてあげられなかった無力さと同時に、最期まで診させて頂いた感謝の気持ちでいっぱいになりました。この患者さんから学んだことを、次の診療に活かしていくことが供養になることを忘れずに、これからも日々の診療を行っていきたいと思っています。これからも宜しくお願い致します。

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