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コラムNo.47

そっと手を診る

このはな皮膚科医院
  松 浦 能 子

「はたらけど はたらけど 猶わがくらし 楽にならざり ぢっと手を見る…」今日もひたすら手を診る私です。皮膚科を開業して5年、皮膚は最大の臓器といわれます。頭のてっぺんから足の先まで、全身を診るようにしなさいと教えられてきました。しかし、やっぱり、手を診ることが一番多いです。小さな赤ちゃんからお年寄りまで、必ず患者さんの手を診ます。

26歳女性、今まで、にきびや顔の肌荒れで受診されていたのに、今日は手がかさかさ、亀裂もできています。「最近炊事多くなりました?」「結婚したんです。」ご主人のために食事やお弁当をがんばって作るようになったから、手が荒れ始めたんだね。

大学生24歳の男子、居酒屋のバイトで手がぐちゃぐちゃに荒れかゆくて苦労してたのに、今日はすっきり。「国試の勉強で忙しくなってしまって…。4年間続けたバイトやめました。」

手湿疹ばかりではありません。手のひらにかゆみのない膿疱多数の中年女性、「たばこ吸ってませんか?」と聞くと「え、吸ってます。」喫煙女性に多い、掌蹠膿疱症です。「禁煙してくださいね。」と伝えます。

78歳男性、最近手足の皮が固く、ひび割れるとのことです。このような高齢の患者さんには、「きちんと毎年検診受けられていますか?」と必ず聞くことにしています。胃がんに伴う後天性掌蹠角化症を見過ごした苦い経験があるからです。

19歳派手目の女の子、仕事で各地を転々としているとのこと。かゆみのない発疹が身体に出たりひいたり。まさかねえ、と手のひらを見ると、乾癬みたいな角化性爪甲大紅斑。まさかの梅毒でした。

50歳男性、とてもきまじめそうな歯医者さん、手のひらに小さな黒色斑が出現したと来院されました。まだ2ミリもありません。5月連休明けから急に出てきたと心配されます。ダーモスコープで拡大し、「形も丸くきれいだし様子をみましょう、6ミリを超えたり、急速に増大すれば生検しましょう。」と話すと「もしメラノーマだったらどうするんですか?生検したらかえって転移するのでは?」と心配そうな歯医者さん。岡大皮膚科紹介でセカンドオピニオンをきいていただくことにしました。

このように毎日手を診ている私ですが、心がけていることがあります。患者さんの手にふれて診ることです。痛く、かゆく、固くなった手、温かい手、冷たい手。手を通して色々なお話を聞かせて頂きます。手を診ながらその方の生活を診るような気持ちです。5年間を振り返り、姿勢を正し、これからも毎日、そっと、じっと、手を診ていきたいと思います。

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