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コラムNo.72

児島のともえ御前、左記の者就労に際し配慮を要す

医療法人 勲友会 味野医院
  院長  吉 村 友 江

私は、一昨年還暦を迎えた児島の精神科開業医です。昭和54年岡大卒(ヒッポ会)です。「自力の範囲を守って、私はいつでも此処に居る」ことをモットーに診療して参りました。このEnjoi通信には活躍する女医さんが次々に登場されましたが、私はある意味「こんな人でも女医でいられた」ことを具現化した落ちこぼれ女医です。

小学生のころから忘れ物が多く、頼まれると安易に請け負っては「うっかりの無責任女子」でした。小学校卒業時に担任から頂いた色紙には「責任を果たすことはあなたを更に伸ばす」とありました。先生の御気遣いあふれる言い回しに、今更ながら感心致します。私がそれ以外にも少し変わった特性のあることに気付いたのは高校時代でした。業間休みの級友たちとの雑談に上手く乗れず、特に長い昼食休憩に机をくっ付けて由なし事をお喋りすることが苦痛で、購買の長い行列に無意味に並んでいることの方が気楽であることを発見したのでした。しかし、お喋りが嫌いな訳ではないのです。文章を書きだすとペンのお喋りは止まらず、この文章も指定限度内に短縮化するのに苦労しております。自分が書くほどには、人の長文の理解は出来ないので困っています。

何とか合格した岡山大では、当時大学紛争の終末期。予定の講義室がバリケードで封鎖され、日に日に講義の場所の変更や中止が続きました。掲示板に突然張り出される講義室の地図。皆が難なく行ける農学部や工学部の講義室に、私はなぜか辿り着けない!だれにも理解されないこのひどい疲労感。もちろん大学には時を知らせるチャイムも無く、噛んで含める校内放送の誘導も無い。高校生活はなんて親切で楽だったのでしょう。時刻表と地図通り縦横に走る市内バスにさえも乗る苦痛を自覚しました。「バスに乗れない友江ちゃん」で、一所懸命する姿は「女チャップリン」と笑われました。何かに気を取られてふと気づくと、皆がどこかへ移動しており、行き先が分からなくなりました。なぜか卒業アルバムには私の姿が1枚も写っていません。私はその時どこで何をしていたのでしょう?本当に在籍していたの?私が意識もできないところで、周囲に沢山鬱陶しい迷惑をかけたのだろうと思います。幸い私は良い友人ばかりと出会ったのでいじめられることはありませんでしたが(自分で気づいていないだけ?)、この種の人間をいじめたくなる気持ちも、不登校になる子供の気持ちも両方理解できます。

こんな変な子が同級生と学生結婚しました。強引に指示をくれる男は頼もしく見えました。おどおどして、素直について来るかに見える女は可愛く制御し易く映ったでしょう。二人の大きな誤解と妄想が結婚へと導いたのでした。頼りに思えた男は、動き出したら早々には方向転換のできない航空母艦で、信長のように自己中心の横暴な人でした。うぶで従順と思われた女は、思い立ったら制止も聞かず、お宝と信じる物を持ち帰り、何度注意されても無反省かに見えるキャッチャーボートのような人でした。男も女もそりゃあ驚いた。私達の間に2人のジュニアが育ち、これがまた相当風変わりで驚いた。2人共に精神科医になりましたが、きっと周辺を面食らわせ、迷惑をかけ、ひょっとしたら笑われもし、それでもきっとその真っ直ぐな誠実さとバイタリティで、少しはお役にも立っていると思います。親ばかですね。

さて、個人的に大きな欠陥を持ちながら味野医院で精神科外来診療をするには、医療スタッフみんなの総合チームワークに支えられていなければ成立しません。診療の流れの間に、別の事が突発的に挟まるとケアレスミスを起こしやすい私なので、処方のチェック、書類の記入漏れのチェック、折り返し電話をすべき約束の忘備などはスタッフが神経を遣ってくれます。あまりに診察に熱が帯びると二人の世界に入り込み、時間の管理もできなくなってしまうので、スタッフが私の頭を冷やしに、さりげなく入室してくれます。そこで予約時間との激しいズレを知ることになるのです。

こんなトホホな私が生存していて、優れた同級生医師がもう何人か先に逝ってしまいました。彼らを天国でハラハラさせぬよう、私を主治医と頼んで下さる患者さんにご迷惑をかけぬよう、するべきこととやりたいことをすぐやる、しつこくやる、でももう少し注意深くやる、児島の灯台守でありたいのです。

昨秋に倉敷連合医師会展に出品した夫 吉村勲の油絵「Libido」(F50号)と、その絵に寄せた私のポエム(未発表)を此処に掲載させていただきます。


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