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コラムNo.18

一粒の苺

森脇内科小児科医院
  小 橋 ひ ろ み

それは5月のある日、午後の外来での事でした。赤ちゃんの頃からずっと診させて頂いている5歳の女の子Aちゃんが“かぜ”で診察に来てくれました。いつものようにひととおりの診察が終わったところで「先生にプレゼントがある」と言って、ティッシュペーパーにくるみラップで包んだ小さな苺を一粒私に渡してくれました。聞けば、幼稚園で鉢植えで育てたものだが、たった一粒だけしか実をつけなかったその一つだということでした。そんな貴重な物をお父さん・お母さんではなく、また自分で食べるのでもなく、この私が頂いてもよいものかと何度もその女の子に聞き直しましたが「いいよ、先生にあげる!」とのこと。傍に居られたお母さんにお聞きしても「どうぞ、子供がああ言っていますので」ということなので、有難く頂きました。

思えば小児科医になって30年。積極的に医師になりたくて医学部に入学したわけではない(申し訳ありません……)私は、学生時代、解剖実習・泌尿器科のポリクリなど幾度も“もうやめよう”と思いながら、やっとの思いで6年間を過ごしました。子供が大好きで、6年間やり通したら進む科は“小児科”しかないと心に決めて、卒業後は迷うことなく小児科へ入局しました。ところがそこで待っていたのは、大好きな子供達に苦痛を強いることが多い仕事であること、また、家族の中で必ずその順序が逆であるというとても悲しい子供の死に直面しなければならない仕事であるという事実でした。それでも、今のようにサポートの充実していない時代に子供を二人出産し、一時の中断を経たのみで仕事を続けてくることが出来たのは、実家の両親の存在や主人の理解(消極的ではありましたが)によるところが大きいものの、何といってもまわりの子供達からもらったたくさんの笑顔とパワーがあったからだと思います。

今、私の診察室の壁には子供達からもらったたくさんの似顔絵(笑える物から似ても似つかない美女の物まで様々あります)やお手紙が所狭しと貼られており、疲れた時にはそれらの存在が私の心を癒してくれます。

冒頭の苺、長い間手を合わせ、感謝しつつ頂きました。甘酸っぱさとAちゃんの優しさ、そして何とも言えない幸せな気持ちが口の中いっぱいに広がりました。“小児科医になってよかった!!”と心の底から思える出来事でした。

今子育て中で仕事と育児の両立に苦闘している後輩のみなさん、必ずや“仕事を続けていてよかった!”と思える日が来ると思います。どうか一歩一歩日々歩みを止めず頑張って下さいね。

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