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コラムNo.96
医療法人恵和会 内科いこいの家 田嶋 利恵
はじめまして、倉敷市児島地区で、父の代からの診療所を継承している内科開業医です。父はいわゆる何でも屋の家庭医として、開業当初は医院に寝泊まりしながら診療にあたっていたそうで、子供ながら「断らない医療」を感じていました。仕事に行く前に診てほしいと頼まれ、早朝から検査や治療をしていたり、「具合が悪くて動けない」と連絡があれば時間外でも往診し、またある夜間帯警察から連絡があり「この時間帯に何」と思っていたら検死でした。誰かが診ないと…そんな思いからだったのでしょう。特に晩年は家族で夕食を共にしている最中の診察依頼に生きがいすら感じていたのか、張り切って出向く姿が思い出されます。
「尊敬する人は誰ですか」
「祖父です。いつでも笑顔で患者さんのために仕事をしているところが、すごいと思ったから」
長女が小学生の時書いていた作文の一部です。短い時間でしたが、祖父との関わりの中で感じていたのでしょう。その子も成長し、今まさしく大学受験の真っ只中、健闘を祈ります。
仕事好きの父の診療をそのまま継承したことにより、祝日も平常通りで、子供たちはというと、学校と親から解放された自由な時間として謳歌していたようです。庭でキャッチボールをしていると、隣地区のソフトボールチームに誘われ、また両親が忙しいでしょうからと休日のボーイスカウト活動に参加する事になり、夜の時間帯なら引率出来るからと剣道スポーツ少年団に入団し…子供達の成長の為に関わる大人は、皆ボランティアでした。
また、我が子が通う予定の公立小学校に放課後児童クラブがない事に疑問を持ち、校長室に飛び込んだ事により設置に奔走することになりましたが、児童民生委員、愛育委員、自治会、子供会、PTA…子供とその保護者の為になるならと設置に向けて協力して下さったのもまた地域を支える方々で、そのボランティア精神に頭が下がりました。
「仕事と両立しながら子供4人どうやって育てたん」
よく聞かれることの一つですが、子供は社会の宝、迷惑をかける事もある、好意は断らず受ける、叱られたら謝る…親が仕事ばかりしているからこんな事が起こるというニュアンスを含む為、これは中々辛い経験でした。
子供が小さいうちに沢山謝っとくのがいちばん、ただの思い出に代わる日が来る…これも事実です。
また「出来る人」が「出来る時」に「出来るだけの事」をするPTAの精神も、役員として参加させて頂き勉強になりました。
大学卒業から30年近く経った今、子育てを通して地域の方々と関わり協力して頂いた経験から、児島地区の地域医療と介護についても深く考えるようになり、夫は川崎医科大学神経内科砂田教授の御指導のもと、児島医師会副会長として児島地区認知症連携の会「神経疾患連携の会」を立ち上げ、多職種の皆さんと共に勉強することで連携を深めています。私は「受診困難」「認知症」とその家族を支えるをモットーに認知症サポート医として、地域のケアマネジャーさんを中心に多職種の皆さんと連携しながら訪問診療にあたっています。そしてその先にある「その人らしい安らかな最期は何処でどうあるべきか」。施設、グループホーム、在宅で看取りをさせて頂く中で自問し、反省もしているところです。父が祖父母を在宅で看取ったように、家族で父を看取った事が影響しているかもしれません。
これからも微力ですが、少しでも地域の役に立てるよう気力体力充電しながら、もう少し頑張ってみようと思っています。
今後とも宜しくお願い申し上げます。