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コラムNo.28

異文化に触れる旅

しな子レディースクリニック
  荒 木 詞 奈 子

趣味は、と聞かれて旅行を挙げる人は結構いるだろう。かくいう私も旅行が好きだ。子供のころに家族と行ったハワイ旅行を除いて、私にとっての初の海外旅行はトルコだ。当時健在だった祖父母とともに冬休みを利用してギリシャ・トルコツアーに参加したのだ。冬のギリシャは、私がイメージする紺碧の空と海のギリシャにはほど遠く、どんよりと曇った空、荒れる地中海であった。正直言って、あまり強い印象はない。ギリシャについで訪れたトルコは、広い国土の中にいろいろな表情があり、物の考え方の違い、アジア・ヨーロッパの狭間にある国としての長い歴史の変遷の多様さに圧倒された。みどころ満載のトルコ旅行の中で、特に私の記憶に残ったのは、イスタンブールの地下宮殿とアヤソフィア寺院である。地下宮殿とは、東ローマ帝国時代にイスタンブールに作られた地下貯水池である。138mx65mの空間を合計336本の大理石円柱が支えている。この柱の中に、メデューサの顔が彫られた古代の石塊を土台にしたものがある。なぜ、この柱が印象に残るのか。メデューサの頭が、あるものは上下逆さまに、あるものは横倒しの状態で設置されているのである。美術的効果を必要としなかったためであろうが、私にはとてもインパクトが強かった。日本人なら、おそらくは指示されなくても顔の向きは正しく設置するであろう(そうであると信じている)。

アヤソフィア寺院はやはり東ローマ帝国時代に創建された、元はキリスト教の大聖堂である。1453年、コンスタンティノープル(現イスタンブール)をオスマン帝国が占拠すると、アヤソフィア寺院はイスラム教のモスクへ転用されたのである。寺院はトプカプ宮殿の側に位置し、オスマン帝国の君主が毎週の礼拝に訪れ、尤も格式の高いモスクのひとつとされた。君主が礼拝に訪れるモスクが、キリスト教会をリフォームしたものなんて、なんという合理主義。聖堂内部はあまり手が加えられておらず、キリスト教聖堂であったころのモザイクは壊されることなく、上から漆喰を塗られただけであった。トルコ革命後、トルコ共和国によって、アヤソフィアは無宗教文化財として公開され、断片的にではあるが、モザイクの上に塗りこめられた漆喰も除去された。おかげで今日私たちはモスク様式に「リフォーム」された建物の中に、キリスト教のモザイク画をみることができる。

自分の知らなかった世界をみることができる旅行が、私は好きである。日本とは違う大自然がみれる旅行、連綿と続く歴史を感じることができる旅行など、夢は広がるばかりである。

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