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コラムNo.40

私の恩師

総合病院岡山市立市民病院 糖尿病センター
  小 畑 さ や か

この度、医師会にも所属していない私に女性医師コーナーの執筆の依頼が舞い込んできた。内容はどんなものでもいいのよ、と優しくおっしゃってくださったのだが、はてさて。仕事…そのような大そうな事は残せていない。趣味…恥ずかしくて言えない。医師になってから9年。振り返る年月もまだまだ浅く、完全に行き詰っていたのだが、一つだけお話しできそうな事を思いついたのでお話してみようと思う。

私が医師になったのはマッチングシステムが開始となった2年目の事である。運命の出会いは見学に行った時の応接室。待っていて下さったのは、当時副院長をされていた東俊宏先生であった。

たまたま見学に行った岡山市民病院。あまりのボロさに恐れおののき、見たことのない古い器具や巨大な病室のドアなど、色々なことに目を見張るものがあった。しかしながら、働く先生方やスタッフは非常に優秀で優しく、よく働く人達であり、縁あって初期研修を岡山市民病院で始めることとなったのだ。

当時は医師の数も少なく、初期研修といえどもマンパワーの一人として扱ってもらえた。周りの先生方に迷惑ばかりかけながら、最初の2年で本当に色々な経験を積むことができた。こうして後期研修以降もずっと当院で過ごすことになったわけだが、3年目は肝臓内科で1年間研修をすることとなった。ここで私は運命の1年間を過ごすことになる。東先生は言わずと知れた肝臓の大家であり、当院では内科のトップであった。いつも誰よりも早く来て、誰よりもたくさん働いて、困ったことが起こると真っ先に出てきて対応して下さった。週に一度、病棟での部長回診は必ず行い、カルテを載せたカート(当時は紙カルテだった)を病棟師長と3人で押しながら、回診をした。病室に入り、カルテを開き、患者さんの現状を細かく確認し、重要ポイントを指で示しながら、「な? な?」と私におっしゃり、患者さんに話しかけながら丁寧に、本当に丁寧に診察をする。患者背景も十分に理解し、患者に寄り添い、熱心に治療する。あの、聴診をする姿、腹部触診の手つき、今でも鮮明に覚えている。時間のある時は詰所で椅子に腰かけ、足をブラブラさせながら、テニスの話をしたり、釣りの話をしたり。振り返ってみても、話したことは仕事の話というよりも、その他の話ばかりしていたように思う。私はあの1年間、彼の背中を見て大きくなった。今の私の専門は糖尿病であり、実は東先生が大家であるというはっきりとした認識がない。恩師であり、知識人であり、父のような存在で、今の自分の礎となっているように思う。この6月、東先生主催の岡山で行われた消化器病支部例会では、ワークライフバランスについてのシンポジウムのシンポジストとして恐らく生涯ないであろう経験をさせて頂いた。いつも彼の役に立とうと奮起するが、いつまでたってもヒヨコで、役に立てる日が来るのか。でもいつかきっと、あの日まいた畑違いのタネが大きくなって、彼が自慢できるものになりたいと思い続けている。

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