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コラムNo.50

6年目の巣立ち?-落巣ひなにならないように

岡山ろうさい病院
  山 岸 智 子

私は初期研修を終えた後は、腫瘍内科医として働きたいと思い、母校の腫瘍内科に所属し2年間を過ごしてきた。毎日が新しいことの発見や勉強の日々で、患者さんと触れ合いながら多くのことを学んだ。

そして卒後6年目となった今年。大学卒業後より勤務した母校を離れて新たな職場で働くこととなった。新たな職場に移動になったきっかけは、職場の上司からの提案ではなく、私自身の希望だった。

「環境が人をつくり、人が環境を変える」という言葉がある。

これを私自身の解釈で考えてみると、良い環境に身を置くことで私自身が変わり、さらには変わった私の影響で周囲の環境も変わる、という意味になるだろうか。

母校で腫瘍内科医として働いた2年間。信頼できる上司から多くのことを学び、そして沢山の指導も受けた。職場で辛いことがあった時も、上司は飲みに連れて行ってくれ、たくさんの愚痴を聞いてくれた。自分でも感じるほどに、大切に教育された。

しかし大切に育てられたからこそ、"離れて自分の力を試してみたい。環境が変われば、自分も変わる!"という思いが出てきた。自分の今後のこと、職場のことなど、心の中で葛藤し、結果として上司に職場を変えたいとの希望を伝えた。

部下からのこのような発言は、上司の立場からすると"今の職場に満足できない"と間接的に伝えられているようなものであり、非常に失礼だったと思う。飼い犬に手を噛まれたような状況であり、私自身が、この希望を伝える時に想像していたシチュエーションは飼い主である上司に飼育放棄されることだった。

しかし、そんな時に上司の口から出てきたのは、「(私が)いなくなるのは寂しいけど、応援しているから頑張っておいで。羽ばたいて、困ったり、不時着しそうになったら戻っておいで」との送り出しの言葉であった。この言葉には感動し、私自身が頑張らないといけないのだと再認識すると共に、この上司の人柄に惹かれ、ついてきて良かった。と感じた。

春に日本を訪れるツバメのひなは、孵化して巣立った後は、羽ばたく練習をして南へ渡っていく。巣立ちの段階までは親鳥に甘えてばかりだが、いざ巣立ちをするときには自分の力で十分に飛べないと落巣ひなとなり、飛ぶことはおろか、命を落としてしまうこともある。

6年目の春。私は、巣立ちの機会をもらった。新しい職場は今まで働いていた環境とは異なり、勉強になると共に自分で責任を持って対応しないといけない場面も増えた。環境を新しくすることで、周りから受ける刺激も異なり、自分自身も成長していっているように感じる。この周りが与えてくれた機会を活かせられるかどうか、落巣ひなにならずに羽ばたくことが出来るかは、これからの私自身の頑張りだと感じている。巣立ちの準備をしてくれた上司に感謝すると共に、少しでも恩返しができるよう、成長した姿でまた帰ることが出来るよう、一生懸命取り組んでいこうと思う。

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