岡山県医師会

TOP >  岡山県医師会の活動 >  役立つ会報Lineup > EnJoi通信

役立つ会報Lineup

EnJoi通信

EnJoi通信のTOPへ戻る

コラムNo.54

私と研究

津山ファミリークリニック
  村 田 亜 紀 子

卒後10年目で、家庭医として津山で勤め始めて3年目です。今年から診療所業務に加え、岡山大学医歯薬総合研究科疫学・衛生学分野の博士課程に進学し、毎週火曜と土曜に津山から岡山まで通学しています。医師である夫も今年から岡大の公衆衛生学修士(MPH)の2年間コースに在籍していますが、こちらのコースはTV会議システムを用いた遠隔講義・ディスカッションで通学を最小限におさえることができるため、私の通学時は3歳の娘の育児を夫に任せ、研究と臨床と生活の3足の草鞋をなんとか両立させ忙しい毎日を送っています。

プライマリ・ケア連合学会(旧日本家庭医療学会)の家庭医療専門医後期研修プログラムでの後期研修を2007年から私は開始しました。専門医取得の経験要件に「研究」が含まれていたことから、研修開始当初より「研究」とはなんだろうか、と考えていました。そもそも自分が研究をするイメージも持てず、果たして本当にできるのだろうか、と漠然と思っていました。

卒後5年目、日本最北端の離島の礼文島(北海道)で研修をしました。そこに存在する医療機関は2つの診療所だけで、私の勤務先が時間外対応や救急車対応を一手に引き受けていました。離島での研修を開始して1カ月目に「失神した60代男性」が救急搬送されてきました。すでに腹腔内出血によるプレショック状態でしたが、夕刻で天候も悪く搬送困難であったためやむなく診療所にて緊急手術を行いました。今では珍しい新鮮血輸血も行いどうにか救命できました。のちに胃の血管形成異常が原因とわかったのですが、この症例はどの程度稀な疾患なのか、礼文島のこれまでの医療の中でどのような位置づけなのか、と単なる症例に留まらない興味を感じ、礼文島で学んだことの一つとしてまとめ、学会発表することにしました。これがきっかけで研究を面白いと感じるようになりました。

後期研修修了の頃、勉強会で若手家庭医3人と知り合い「どの程度の人数の人が後期研修を受けているのか?」「若手家庭医はなぜ家庭医を目指したか?」といった疑問について熱く語り合う機会がありました。まだ家庭医というものが知られ始めてそう経たない頃でもあり、答えが存在するわけもなく、私を含めた4人で答えを求めて一緒に研究を始めることになりました。Skypeを利用して遠隔地にて何度も何度も議論しながら「家庭医を目指す動機に関する研究」を進めたのですが、全員が研究初学者だったため相談できる人を探しながら手探りの状態でした。4年かけてやっと海外誌に投稿できましたが1)、メンバーの一人が途中から大学に所属していなければ、文献検索や研究の進め方への助言は得られず形にすることは難しかったと思います。研究への知識がない状態で大学から離れた場で研究を行うことの難しさを実感し、もっと学びたいと大学院への進学を決意しました。

私は現在プライマリ・ケア連合学会の男女共同参画委員会の委員としても活動しており、女性のキャリアの支援のために説得力のあるデータを蓄積する必要があります。自分のリサーチクエスチョンに合った研究を行うためには、臨床のDutyなく研究デザインを系統的に学ぶことのできる疫学・衛生学分野が適しており、日々充実しています。一歩ずつですが研究デザインの基礎を身につけながら医師として活動していけたらと思います。

参考文献
1) Kenya Ie, Masao Tahara, Akiko Murata, et al. Factors associated to the career choice of family medicine among Japanese physicians: the dawn of a new era. Asia Pacific Family Medicine. 2014, 13:11, doi:10.1186/s12930-014-0011-2. http://www.apfmj.com/content/13/1/11,(参照2014-11-18)

ページトップ